労働相談Q&A

社会保険労務士が働く人と雇用する側の労働関係の法令について分かりやすく解説します。

  • Vol.07 正社員転換時の年次有給休暇について

    質問

    週3日、7時間勤務のパートタイムとして3年間勤務しました。今年の7月から正社員に登用されました。パート社員期間の有給休暇が5日残っています。
    会社から以前の有給休暇は消滅するので、正社員になって6か月経過後、8割勤務の場合10日の有給休暇が新たに発生すると説明を受けました。
    そうすると正社員になって6か月間は、休暇がとれなくなりますので、休んだ場合欠勤として賃金カットになるようです。会社の説明は正しいのでしょうか。

    ポイント

    継続勤務の実態があれば、契約社員の期間から正社員転換は継続勤務とみなされ、有給休暇は通算されます。

    解説

    パート社員として勤務した後、雇用契約期間が中断されずに正社員として採用された場合、有給休暇日数は、パート期間から継続勤務したものとして、有給休暇は通算されます。
    具体的には、パート期間の5日の有給休暇は、正社員に採用された後も有効です。
    会社の説明のように、パート期間の有給休暇が消滅するわけではありません。次の有給休暇の付与日まで、休暇を消化することができますので、有給を取得したからといって、賃金がカットされることはありません。ただし、正社員に転換した時点で有給休暇日数も変更になるわけではありません。
    厚労省通達(昭和63.3.14基発150号)では、「年度の途中で所定労働日数が増加しても、年次有給休暇は基準日に予定されている所定労働日数に応じた日数を付与すれば足り、変更後の所定労働日数に応じて有給休暇の付与日数を増やす必要はない」とされています。
    正社員に転換されても、次の有給休暇の基準日までは、現在の日数になります。
    たとえば、パート期間は、週3日勤務でしたので、これまでの有給休暇は比例付与として6か月…5日、1年6か月…6日、2年6か月…6日、が付与されていました。
    正社員になると3年目(2年6か月を超えているとして)で12日が付与されますので、会社の方に、有給休暇日数を確認して下さい。

  • Vol.06 有給休暇の通勤手当支払いについて

    質問

    正規社員として勤務して3年になりますが、退職願いを出して、有給休暇を消化するために1か月休み、先月退職しました。退職日の翌日に賃金が振込されていたのですが、通勤手当が計算に入っていませんでした。通勤手当は毎月定額で支給されていました。
    これまで有給休暇で休んでも、通勤手当が減額されることはなかったのですが、このような場合通勤手当も請求できるのでしょうか。

    ポイント

    通勤手当は会社によって定め方が違いますので、規程内容を確認しましょう。
    年次有給休暇の賃金について、各社の就業規則では一般的に、次の3つの方法で定められています。
    有給休暇の賃金については、
    ①平均賃金で支払う
    ②健康保険法の標準報酬日額で支払う
    ③所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金で支払う

    就業規則の規程が①と②で定められている場合は、月の賃金の中に「通勤手当」が含まれていますので、通勤手当を支払う必要はありません。
    ただし③の、通常賃金で支払う場合の通勤手当の支払いについては、社内の規定の定めによります。

    解説

    通勤手当は、法律上の定めではありませんので、必ずしも年次有給休暇を取得した日について通勤手当を支払わなければならないということではありません。本来、通勤手当には、実費弁償的な性格があるからです。
    ですから、年次有給休暇を取得した日について、通勤手当が支払われなかったとしても、年次有給休暇を取得したために通勤費用がかかっていないことになりますので、支払われなくても違法とはいえません。
    就業規則等で、「通勤手当は、実際に出勤した日についてのみ支給する」「○日以上出勤しない場合は通勤手当を減額または支払わない」と定めていれば、通勤手当が支払われないこともあります。
    また、就業規則に定めがない場合は、通常賃金(通勤手当も含めた額)を支払うことになります。
    休暇の際の通勤手当については、どのような条件で決められているのかを確認してください。

  • Vol.05 育児休業給付金について

    質問

    1月に入社し、2月から正社員になりました。翌年の2月に出産予定です。
    出産後、育児休業をとる予定ですが、育児休業給付金はもらえますか。
    また、いつまで、いくらもらえますか。教えて下さい。

    ポイント

    育児休業給付金の支給には、次の要件があります。
    1. 雇用保険に加入していること、育児休業前の2年間のうち、1ヶ月に11日以上働いた月が12ヶ月以上あること
    2. 育児休業中に、勤務先から1ヵ月に月給8割以上を貰っていないこと
    3. 休業日数が対象期間中に毎月20日以上あること
    4. 育児休業後に働く意思があること
    産前産後休業中は健康保険から出産手当金が、育児休業中は雇用保険から育児休業給付金が支給されます。育児休業給付金は、育児による離職を防いで仕事を続けることを支援する制度ですので、育児休業後は、職場復帰することを期待しています。

    解説

    育児休業給付金の支給期間
    給付金は、産後休業が終了した日の翌日(出産日から58日目)から、子が1歳の誕生日の前日までの休業した期間に給付されます。
    ただし、保育所に入所を希望して申し込み中で入所できない場合などの特別な理由がある場合は、1歳6か月まで延長が可能です。

    育児休業給付金の金額
    ①育児休暇開始から180日目:月給の67%
    ②育児休業開始から181日目以降:月給の50%
    書類の提出から2~5ヶ月後に、最初の給付金が振り込まれ、その後、2ヵ月ごとに給付金が振り込まれますが、2ヵ月ごとに追加申請が必要となり、申請を忘れると、その後の給付金がもらえなくなる可能性もあります。
    産前産後、育児休業期間中は、社会保険料が免除になります。

    ママの代わりにパパが育児休業を取得する場合も給付金を貰う事ができます。
    2人ともに育児休業を取得する場合「パパ・ママ育休プラス」といって、赤ちゃんが1歳2ヶ月になるまで、2人それぞれ1年間まで育児休業を取得できます。
    ママの場合は、産休期間(基本8週間)後から、育児休業が開始となりますが、パパの場合は、出生日または出産予定日から取得可能です。

  • Vol.04 人と雇うときのポイント

    質問

    これまで1人で会社を経営してきました。業務が忙しくなったので、2人雇う予定です。
    1人はフルタイムで、1人はパートで契約したいと思います。
    初めて採用するので、雇用管理の注意点について教えてください。

    ポイント

    1. 雇用契約の期間(無ければ「期間の定めなし」と記載する)
    2. 働く場所、仕事の内容
    3. 始業及び就業の時刻、残業の有無、休憩時間、休日、休暇、就業時転換(交代勤務の場合の交替日、交替順序等)に関する事項
    4. 賃金の決定、計算及び支払いの方法、締切り日、支払い日
    5. 退職に関する事項(解雇の事由、定年年齢)

    解説

    雇用契約書(労働条件通知書)は、必ず発行しましょう。
    労働相談に寄せられる内容は、ほとんどが事業主と労働者の説明不足が原因と思われます。
    雇用に関して、事業主が守るべきことの最重要ポイントは、雇用契約書・労働条件通知書を労働者に発行することです。「契約」ですから双方の合意が必要です。

    契約はもちろん口頭でも成立しますが、労働の契約は、「使用者は労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と記しています。つまり文書で交付しなければいけません。

    事業主が提示した雇用契約書の内容を確認して、合意すればそれぞれが署名して契約が成立します。
    これは正社員だけでなく、パートやアルバイトの短期間雇用の場合も同じです。雇用契約書はお互いの信頼を確認するものです。
    労働相談には、「雇用契約書がない、見てない、説明がなかった」また、労働者も「請求しなかった、雇用契約書は我が社は作成してない」等が多く双方の理解が十分でないケースが見られます。採用した社員に能力を発揮してもらうためには、雇用関係が安定していること、事業主に対する信頼を築くことが基本です。

    後々のトラブルを防ぐためにも、採用時には必ず雇用契約書を作成・配布して、お互いに確認し合うことで、安心・信頼して働ける社会にしましょう。

  • Vol.03 退職届の承認について

    質問

    正規社員として勤務して5年になります。
    会社の就業規則では1か月前に退職願を提出することが定められています。
    この度、一身上の都合で退職を申し出ました。もちろん退職予定日の1か月前に上司に退職の意思を告げ、翌日に退職届を提出しました。
    ところが上司から「次の社員を採用するまで、待ってほしい」と言われ、1か月経過しても退職願いが受理されていません。
    今後の再就職の準備もしたいのですが、退職願いは会社が承認しないと、退職できないのでしょうか。

    ポイント

    1. 退職は労働者の意思により、効力が発生するため、会社の承認を必要としません。
    2. 期間の定めのない雇用契約については、解約の申し入れ後、2週間(但し、月給制の場合は、当該賃金計算期間の前半に申し入れて下さい。)で終了することとなっており、会社の同意がなければ退職できないというものではありません。(民法第627条)

    解説

    正規社員の場合、期間の定めのない雇用契約になるので、労働者の申し出により2週間を経過すれば退職することができます。
    但し、会社の業務の運営上、就業規則に「退職は1か月前に申し出なければならない」と定められていることがありますが、会社の任意の定めです。
    今回、「次の労働者を採用するまで、待ってほしい。」と言われ、退職願いが保留になっているようですが、法的には強制する根拠はありません。
    また会社の承認がなければ退職できないものでもありませんので、2週間以上も経過しているのであれば退職は可能です。
    しかし、いつまでも保留になるようでは、お互いに今後の予定に支障をきたしますので、上司と相談して退職の予定期限を決めることも必要です。
    予定期限内で、引き継ぎ文書を上司に提出して、次の人の業務がスムーズにいくように準備できたら出社しなくてもよいということになります。契約期間の定めがある雇用契約の場合は、原則として、使用者は契約期間の満了前には労働者を辞めさせることができない反面、労働者も契約期間中は会社を辞めることができません。
    ただし、やむを得ない事由がある場合は、各当事者は直ちに契約を解除することができることとされています。
    5年間務めた会社ですので、退職もお互い気持ちよく行うよう双方で努力してみて下さい。

  • Vol.02 懲罰のルールについて

    質問

    入社して10年になる正規社員です。
    今回、うっかりミスをして会社に迷惑をかけてしまいました。
    上司から「お客様の信頼を失くした重大なミスだから、処分を検討している。減給になるかもしれない」と言われました。
    とても反省していますが、減給となると、どのくらい、いつまでになるのでしょうか。

    ポイント

    1. 減給は労基法で限度が定められています。
    2. 懲戒処分は就業規則上の根拠が必要です。

    解説

    長年仕事をしていてもミスを犯すことがあります。
    会社には業務を正しく進めたり、職場運営をスムーズにするために、従業員が守るべきルールや服務規律があります。
    この規律を守らずに業務に支障をきたしたり、職場環境を悪化させるなどの行為があった場合に、制裁罰として懲戒処分を行うことがあります。
    懲戒処分は、従業員に与える影響が大きいこともあり、特に慎重に行う必要があります。

    制裁を行うための要件は、①就業規則に定めがあること、②懲戒事由と罰則の程度が適正な範囲であること、③懲戒の手続きが妥当であること、です。会社の就業規則を確認してみましょう。

    制裁する場合は、問題となる行為の程度によって処分に違いがあります。
    懲戒の種類には、一般的に①戒告、②けん責、③減給、④出勤停止、⑤降職・降格、⑥諭旨解雇、⑦懲戒解雇があり、①から順に重い処分となり、会社によってその内容にも違いがあります。

    減給については、「1回の額は平均賃金の半額まで、複数回も制裁する際は一賃金支払い期間の賃金総額の1割までが限度」(労基法第91条)と定められています。
    そのため1つの事案に対して、何か月にもわたって減額することはありません。
    仕事上のミスが発生した場合、ミスや処分だけにこだわらず、今後の再発防止についても具体的な対策を検討しましょう。

  • Vol.01 上司のパワーハラスメント

    質問

    私の上司は、帰り間際に突然仕事を言いつけたり、仕事でミスをすると1時間くらい私を立たせたまま説教したりします。
    子供の保育園への迎えもあり、とても困っています。
    このようなことはパワーハラスメントだと思いますが、直接反論したりするとさらに大声を出したりしますので、どうしたらよいかわかりません。

    ポイント

    1. パワハラの正しい知識をもつ
    2. パワハラの解決の進め方について、職場の相談体制を確認
    3. 周囲への協力依頼、外部の支援制度の活用

    パワハラとは
    パワーハラスメント(パワハラ)は、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為。」です(厚生労働省)
    上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間等、さまざまな優位性を背景に行われるものも含まれます。
    パワハラは6つの類型に分類されていますが、現実はその他の事例もあります。
    1. 身体的な攻撃(暴行・傷害)
    2. 精神的な攻撃(脅迫・暴言等)
    3. 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
    4. 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
    5. 過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
    6. 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
    現実には、上司から指導・教育であると言われることが多く、指導とパワハラの判断が難しい面もあります。判断基準は「業務の適正な範囲か」「職場環境を悪化させる行為か」です。

    解説

    ご相談の場合、「帰宅間際に仕事を与えられる」「何時間も説教される」ことは業務の適正な範囲と言えるでしょうか。
    パワハラの解決策として、次の職場の体制を確認しましょう。

    ① 職場ではハラスメントの相談員が任命され、みんなに知らされていますか。
    相談員が任命されているか会社に確認しましょう。任命されていなくても総務や人事が担当していることもあります。

    ② 自分が受けている行為がパワハラかどうか確認してください。
    業務の適正な範囲でも、相手への言い方、表現方法も誤解を招くことがあります。乱暴に大声を出すなどは、職場環境を悪化させることになります。
    パワハラは身近な上司や先輩・同僚からの行為のため、直接「パワハラやめて下さい」と言いづらい面があります。一人で対処するより、職場の先輩や同僚に相談することや周囲の協力を得ることも必要です。
    上司のパワハラ防止とともに、―歩先行く職業人として、上司に「今日の業務予定を教えて下さい。今日中に行う業務がありますか」など先手を打って予防策を講じることもできます。また長時間の説教に対しては上司に影響力のある管理者に相談してもよいでしょう。
    パワハラは、管理者自身がパワハラの認識がないことも要因となりますので、会社にパワハラ研修を行うよう働きかけて下さい。
    研修を実施する事は、パワハラ予防策で最も効果的であるという結果が出ています。さらに問題が深刻な場合は、労働局雇用環境・均等室に相談することもできます。

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